精神衛生講座: 第6回「性格の裏と表」

精神衛生講座: 第6回「性格の裏と表」

いくつかの性格特性について説明してきました。これで全てという訳ではありません。今まで説明したどれにも含まれない様な性格の人もいます。また、これらの性格特性とは別の視点で見ると、「甘えん坊」、「我がまま」、「依存的」、「未成熟」というような性格分類も出来そうです。
 性格はどうして形成されるか。これは難しい問題です。生まれながらにして持っている側面があります。これは両親からもらった遺伝的要素といえるでしょう。生まれてからの生活環境の中で形成される側面もあります。どちらの側面が大きな要素かは解りません。しかし、生活環境が性格に与える影響は、何時もあるのでしょうが、3才位までに性格傾向は大体形成されているように思います。「3つ子の魂、百までも」という言葉は正しいように思います。3才位までに性格形成がされるとしたら、子育てはどうすべきか?・・恐いですね。「親を見て子は育つ」とも言いますから、ジタバタしても、なるようになるしかないのかも知れませんが・・。

 今まで、分裂気質や強迫性格は不安防衛のメカニズムであることを説明しました。循環気質のように身体リズムによるような理解が適切な性格もあります。どれがよいとか悪いとか論じることは意味の無いことです。自分の性格を知ることで、自分の性格の欠点と長所を知って欲しいと思います。
 自分の欠点を自覚できていて、それを意識している時には欠点をカバーする行動ができますが、とっさの時は元の行動パターンが出てしまうものです。自分の性格の防衛メカニズムを詳しく理解し、考え方や発想を変えるところまでに至ることができた人の場合、「性格が変わった」と他人に思わせることが可能です。
 しかし、原則的には、「性格は変わらない」と考えてよいでしょう。

 「性格は変わらない」と言われると、がっかりされる人が多いでしょう。特に心理的病気になっている人の場合、その人の性格の欠点ばかりが目立っていますので、性格を変えたいと思っておられることが普通ですから。でも、よく考えて下さい。皆さんは自分の性格の欠点となる側面ばかりを見ていませんか? 
 執着性格の人は、仕事でも遊びでも一生懸命します。仕事もよくできるし、趣味でもかなり本格的になり、素晴らしい性格と言えます。しかし、一生懸命するということは、中途半端でいることが出来ないということですから、するべき仕事が多くなって片付かないとか、相手の人が思いどうりにならない時には、それが負担となり、イライラしたり、落ち込んだりもします。手抜きをしないで頑張るという素晴らしさは、手抜きできないという欠点でもあるのです。
 分裂気質の人は、対人関係が苦手で、自然の中にいる時や自分一人で過ごす時、その人らしさを発揮します。人と遊ぶこともあまりしませんから、勉強をよくします。学業成績がよく、学者になっている人も多いのです。物静かで、自然愛好家で、真面目で正直で、人に迷惑掛をけるようなことは全くしない人です。しかし、社交性がよくないため、対人関係が多い仕事には適しません。話をしていても話題が少ないので、話相手としては退屈ですね。しかし、真面目そのものですから尊敬に値します。世の中には「無口な人が好き」という人もいますから、これは長所とも言えます。
 強迫性格の人は分裂気質ほどではありませんが、人目を気にします。外では他人から非難されないように、何事もきっちりします。外見上は真面目ということになります。他人の評価もよいのですが、人目を気にしないところでは、いい加減な面がでます。一緒に暮らしていますと「外面のよい人」ということが判ります。
 ヒステリー性格の人は自己表現がよくできますので、快活で、人なつっこさから、社交性にも富んでいます。しかし、思ったことを言い過ぎるために、悪評を買ったり、異性にもてるため嫉妬されたりすることがあります。思い切りがよくていい面もありますが、金銭感覚も大ざっぱで、気軽にものを買ってしまって困るということもあります。

この他、性格分類とは別に、長所は欠点という実例をあげておきましょう。「かつて惚れた相手の長所に、後に泣く」ということが沢山見られます。皆さんの場合は如何でしょうか?
「優しさに惚れ、優しさに泣く」:優しい男性に出会い、惚れて結婚した女性がいた。ところが、夫は親にも優しくて、嫁姑の問題で親のことばかり心配して、「我慢してくれ」と言う。優しさは誰に対しても有り、彼女にだけ向いているのではなかったのです。
 「力強さに惚れ、力強さに泣く」:力強い男性に惚れて結婚した。何事に対してもリードしてくれて、ついて行くだけでよく、頼もしい男と思えた。ところが、車を買う時も妻に相談もしない。何でも自分勝手に進めて行く。力強さの裏側は、身勝手で強引な面でもあるということになります。
 「几帳面さに惚れ、うるささに泣く」:几帳面な人は、何でもきっちりする。行動も計画的にする。整理整頓もできる。素晴らしい面ですが、一緒に暮らすと、「細かいところに気が付き、口うるさい人」となることもよくあることです。

 結論として言いたいことは、「長所は欠点であり、欠点は長所である」と私は考えています。皆さんが自分の中に見ている欠点は、必ず、かつては長所であったはずです。性格は変わりませんが、変える必要もないのです。自分の性格のよい面を見て、自分を評価しましょう。