再び不登校について

再び不登校について

 毎年5月に入ると不登校の子供の受診が増えてきます。4月に入学や進級したが新しい環境に適応できず不登校になる時期なのです。大人でも同じで、就職したり転勤したりしたが、新しい環境に適応できなくなってくる時期なのです。「五月病」というニックネームがつくこともありました。改めて不登校について整理してみましょう。
 不登校とは学校に行けないという状態の総称で、病名ではありません。病名を付けるとすればうつ病、不安障害、適応障害などいろいろです。
 その原因は様々です。原因を明らかにすることが治療のスタートです。

<原因として考えられること>
①学校での対人関係が強く関与している場合:
 a)嫌な先生がいる(担任教師、教科担当の教師、部活担当の教師など)。毎日顔を合わ  せるのでかなり苦痛になります。 
 b)嫌な生徒がいる。いじめにあっていたり、無視されている子もいます。
  また、仲のよかった友達が離れて行ったという子にもよく出会います。
  友達が出来なくて孤立している子もいます。

②学業成績が強く関わる場合:
 a)勉強が嫌いで学校に行きたくない子がいます。
 b)成績が下がったため学校に行かなくなる子もいます。
 c)高校では成績のよい生徒が集められた「特進クラス」というクラスがあります。そこで同級生が成績を競い合っています。そこで成績を維持することが苦しくなっている子供にもよく出会いました。ランクを落とせば楽になりますが、落とせないプライドとの葛藤があります。
 d)希望と違う学校に入学したため、通学意欲をなくしていた子もいました。大学生にはよくあることである。
 有名私立高校で成績もよい人で、不登校になっている人もいました。美容師になりたいという目標が早々固まっていて、「受験勉強一色の学校に通学することは時間の無駄だ」と考えている人でした。

③家庭に問題があると学校に行く気力がなくなる場合もあります:
 a)両親のトラブルなどでトラウマを抱えている子がいます。家の中が落ち着いていないと、学校に行く気力も低下するものです。勉強に集中できないとか、人の声に過敏になったりする子もいました。
b)親が信じられなくなると、「人間不信」という重大な心の傷を作ります。
 c)家庭内で孤立する結果となり、家庭での居場所がなくなります。家に居たくないので学校に行った方が楽になると思えるのですが、行く気力がでなくなります。

④性格的要因が強く関わっている場合:
 a)集団の中にいることが怖いと感じる人もいます。対人緊張、対人恐怖と言えるものです。学校も大きな集団ですので教室にいるだけでも苦しくなります。
 b)大きな声や音に過敏な性格の人もいます。大きな声を出す先生や生徒がいると不安が増すようです。
 c)性格が心配症の人もいます。あれこれ心配しなくていいことが気になる人です。これも疲れます。
 d)一人っ子は子供の中で揉まれていないため、社交性に乏しい傾向はあります。
e)精神病・強迫性障害等の初期症状である場合もあります。これは専門医でも経過を見ないと判らないことが多いのです。

⑤知的障害や発達障害が要因である場合:
  学校では一定の教育を全生徒に対して平等に行います。各生徒の能力や特性に合った教育はされていません。
 a)知的障害の子は通常の学校教育についていけません。多くの学校では特別支援教室で対応しています。
 b)発達障害の子供はコミュニケーション障害を持っていることが多いので、しばしば学校で不適応になります。
c)稀に知能指数が高く、学校で習うことが「わかりきった内容で退屈になる」と言い、不登校になっている子もいました。「ギフテッド」と言われる子で、天才児でした。

⑥原因が明らかでない人場合:
 不登校の中には原因は「判らない」という子供が多くいます。親や相談を受けた担当医にも判らない時もあります。しかし気付かないだけで必ず原因があるはずです。見つけ出すのに患者さんも主治医も苦労します。根気よく探し求めることから治療は始まります。

<不登校の治療法は多岐にわたる>
 治療の目標は「学校に行くようになること」とは限らない。その子の課題を明らかにし、その子にあった生き方を一緒に模索することが治療です。
①面接療法(精神療法、カウンセリングなど):
 原因の明確化とその対策を考えることが精神療法やカウンセリングの一つの目的です。これが不登校の治療の主となるものです。患者と治療者の共同作業である。短時間では解決しないことが多い。面接に時間がかかるためカウンセラーの面接を利用することがあります。
 対人緊張の強い人では、医師やカウンセラーと打ち解けるまでに時間がかなりかかります。
②原因によっては学校や親との関係調整が必要な場合がある:
苦手な生徒と別のクラスにしてもらうとか、逆に孤立している子では仲のよい友達と同じクラスにしてもらえるようにお願いすることもありました。
 緊張が強くて人の目線が気になる子では、教室では後ろの隅の座席に変えてもらうことをお願いすることもよくやりました。

③面接者との信頼関係を構築していくことが治療的となることも多く、大切な課題です。原因探しや関係調整をするだけではなく、面接の場が「安心して話せる場」となり、「人を信じるという体験の場」となることが目標となります。治療者は理解者であり、サポーターの役割が出来る場合があるのです。

④薬物療法は補助的には有効であることも多いので、相談しながら試すことがあります。不安、緊張、不眠等の場合です。ただし、不登校自体が薬で治るものではありません。