精神衛生講座 第7回 「性格の防衛的意味」

精神衛生講座: 第7回「性格の防衛的意味」
 性格について、いろいろ書いてきました。そして、性格の欠点と思われるところも、裏を返せば長所でもあるというお話をしました。何故いろいろな性格があるのか・・等と考えてみましょう。いくら考えても、正解は出てこないのですが、親のいずれかの性格を遺伝的に引き継ぎ、その後の生活環境の中で、作り上げられていくもののようです。
 既に、性格の具体的特性をお話したときに触れましたが、性格を「不安の防衛の仕組み」という視点でみると、性格の持つ意味がよく理解できます。
 
 人は思春期を過ぎると周囲の人に気を使うようになります。気を使うことが限界に来るとうつ状態やパニック状態などの症状が出てきます(症状発現)。これは「限界ですよという赤信号」のようなものです。性格はこれを回避するための防止策として機能しているように見えます。
 人は疲れが限界になるとうつ病になったり、神経症になったりします。疲れは、対人関係の中で起こされることがほとんどです。他人を意識し出す思春期に至る前の世代では、相手のことを考えることが少なく、自己中心的に生きていける時代ですので、あまり対人関係で悩むことが有りません。一方、痴呆症になった高齢者では、相手のことを考えることが少なくなるので、現実的不安が減り、心理的な病気にはなりにくくなります。また、疲れ切って心理的な病気になっている人でも、2~3才の子供や犬や猫などペットと一緒に居ると心が落ち着くと言う人がいます。子供やペット達は気を使わないでよい相手、つまり、不安にさせられることが無い癒しの相手なのです。健康な大人はお互いに気を使って生きていて、その気使いに疲れて、ときどき病気になってしまいます。気使いの裏には、気を使わないでいることが出来ない不安が存在するのです。
 対人関係だけでなく、仕事量が大過ぎたり、難しい仕事が負担になったりして、疲れることがあると言う人がおられるでしょう。その通りです。しかし、これらの場合でも、その仕事を放棄したり、不十分な仕事で済ますこと(手抜き)ができたら、疲れを減らすことが出来るでしょう。何でも「やり遂げないといけない」という心の奥には、やれないことで周囲からの評価が下がることへの不安があるのです。結論は、人を不安にするのは対人関係なのです。

 分裂気質の人は、すぐに人を信じることができないことが多い性格です。このタイプの人が不安にならないで済む一番よい方法は、人の中に出て行かないことです。あまり外出しないで、読書、音楽鑑賞など一人で楽しめる方法をいつの間にか身につけていることが普通です。おのずと勉強することも多く、成績優秀な人が多いのも特徴です。外に出るとしても、山に一人で登ったり、書店を一人で回ったり、原則的には一人で、自然の中にいるという生活スタイルが楽なのです。しかし、社会人ともなれば、いつも一人というわけにもいきません。身に付いた癖で、不安が起こらないような行動パターンが出来ています。人の中では、自分の意見を言わない。感情も表現しない。極端に言うと、黙って聞いているだけであれば、一番疲れないのです。自己表現をしないことは集団の中で不安にならない防衛なのです。
 逆に、周囲の人にほとんど気を使わない仕組みを持った人もいます。この場合は周囲の人がどう思うかということが全く気にならない精神構造のようで、言いたいことが言えます。周囲の人にストレスをかけることになりますが、本人は周囲に気を使わないで済むという形の防衛と言えます。

 強迫性格の人は、人を信じることはできますが、いつも人の評価が気になるので、常に周囲に気を使います。従って、親しい人の前でない限り、自分の意見を言えないことが多くなります。とりわけ相手が不快になることはほとんど言えないのです。結果として「いい子」でいるのです。「いい子」は自分を守る防衛なのです。しかし、これが過ぎると自己拘束で苦しくもなります。

 執着性格の人も他人の評価を気にしますが、他人の評価で不安になることよりも自己評価で不安になる特徴があります。自分で考えたことが思い通りに出来ない時、自己評価が下がり、不安になります。もちろん、周囲の状況が自分の思い通りにならない時は、不安や不満が積ります。これを我慢するとうつ状態になるのです。この性格の人は非常に「頑張り屋さん」なので、我慢するとうつになりやすいのです。

 ヒステリー性格の人も多少は人の評価を気にはしますが、この性格の人は他人を信じることが容易に出来ますので、不安になることが少なく、また不安になったとしても、気分の切り替えが早いため、我慢するという仕組みが働くことが少なくて済みます。それだけ病気にはなりにくく、得と言えるでしょう。もっとも、不安が少ないので、人前で、言いたいことを言うことがあり、人から秘かに嫌われているということにもなりかねません。

 不安になることを防ぐという「性格の防衛的意味」は、また同時に対人関係が上手に出来ないという欠点でもあるのです。会社でも家庭でも「自己主張が出来ない」という問題が生じます。上司や配偶者に対して、言うべきことが言えなくて、我慢して、ストレスを貯めてしまっている人も多いのです。日常的な雑談さえも気楽に出来ないとコミュニケーションも悪く、生活環境をよくすることが出来ません。職場の対人関係や家庭の対人関係などをよくする方法は、日常的に、冗談が言えるような雰囲気(関係)を作っておくことが、コミュニケーションをよくするコツです。冗談まで口に出来なくても、朝夕の挨拶や雑談時の返答くらいは出来るようにしていかなければならないでしょう。

 不安が人を病気にすること、性格には不安を少なくするという「防衛的意味」があるというお話をしました。とは言え、常に不安が悪いわけではありません。慢性のアルコール中毒の患者さんによくあるのですが、「俺の金で酒を飲んでどこが悪い」「肝臓悪くして早く死んでも俺の身体よ」と言うような人には不安が有りません。これ以上酒を飲んでいると、失職するとか、離婚話が出てくるなど、深刻な不安が出てこないと人は変化しません。不安こそが人を変化させる転換点なのです。現状に不安の少ない人は、それだけ治療意欲も少なく、治療も進みません。その意味では、不安は人を動かすエネルギーなのです。